監督・撮影・編集 藤野知明 制作・撮影・編集 淺野由美子
編集協力 秦岳志 整音 川上拓也 製作 動画工房ぞうしま
配給 東風
2024年/101分/日本/DCP/ドキュメンタリー
(C)2024動画工房ぞうしま
面倒見がよく、絵がうまくて優秀な8歳ちがいの姉。両親の影響から医師を志し、医学部に進学した彼女がある日突然、事実とは思えないことを叫び出した。統合失調症が疑われたが、医師で研究者でもある父と母はそれを認めず、精神科の受診から姉を遠ざけた。その判断に疑問を感じた弟の藤野知明(監督)は、両親に説得を試みるも解決には至らず、わだかまりを抱えながら実家を離れた。
このままでは何も残らない——姉が発症したと思われる日から18年後、映像制作を学んだ藤野は帰省ごとに家族の姿を記録しはじめる。一家そろっての外出や食卓の風景にカメラを向けながら両親の話に耳を傾け、姉に声をかけつづけるが、状況はますます悪化。両親は玄関に鎖と南京錠をかけて姉を閉じ込めるようになり……。
20年にわたってカメラを通して家族との対話を重ね、社会から隔たれた家の中と姉の姿を記録した本作。“どうすればよかったか?” 正解のない問いはスクリーンを越え、私たちの奥底に容赦なく響きつづける。
監督メッセージ
スタッフ
監督・撮影・編集:
藤野知明(ふじの・ともあき)1966年北海道札幌市生まれ。北海道大学農学部林産学科を7年かけて卒業。横浜で住宅メーカーに営業として2年勤務したのち、1995年、日本映画学校映像科録音コースに入学。千葉茂樹監督に出会い、戦後補償を求めるサハリンの先住民ウィルタ、ニブフに関する短編ドキュメンタリー『サハリンからの声』の制作に参加。卒業後は、近代映画協会でTV番組やPVのアシスタントディレクターとして勤務したのち、CGやTVアニメの制作会社、PS2用ソフトの開発会社に勤務しながら、映像制作を続ける。2012年、家族の介護のため札幌に戻り、13年に淺野由美子と「動画工房ぞうしま」を設立。主にマイノリティに対する人権侵害をテーマとして映像制作を行なっている。監督作品に短編ドキュメンタリー『八十五年ぶりの帰還 アイヌ遺骨 杵臼コタンへ』(17)、長編ドキュメンタリー『とりもどす』(19)、『カムイチェㇷ゚ サケ漁と先住権』(20)、『アイヌプリ埋葬・二〇一九・トエペッコタン』(21)など。「山形ドキュメンタリー道場4」に参加した『どうすればよかったか?』(24)が、山形国際ドキュメンタリー映画祭[日本プログラム]、座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル[コンペティション]、台湾国際ドキュメンタリー映画祭、フランクフルト・ニッポンコネクションなどで上映される。現在、『アイヌ先住権とは何か?ラポロアイヌネイションの挑戦(仮)』のほか、サハリンを再取材し、先住民ウィルタ民族の故ダーヒンニェニ・ゲンダーヌさんに関するドキュメンタリーを制作中。
制作・撮影・編集:
淺野由美子(あさの・ゆみこ)北海道生まれ。元々は単なる映画ファンだったが、藤野知明とうっかり知り合ったことにより、沼へ。2013年、藤野知明と「動画工房ぞうしま」を設立。ジンバブエの音楽とダンスのグループのDVD『JENAGURU/HOSO』(14)、『ジャナグル LIVE in JAPAN』(14)ほかを制作・撮影。藤野知明監督『八十五年ぶりの帰還 アイヌ遺骨 杵臼コタンへ』(17)、『とりもどす』(19)、『カムイチェㇷ゚ サケ漁と先住権』(20)、『アイヌプリ埋葬・二〇一九・トエペッコタン』(21)、『どうすればよかったか?』(24)で、制作・撮影・編集を担当。22年より監督として、障がい者運動を牽引してきたパンクな車椅子ユーザーの女性のドキュメンタリー『遊歩:ノーボーダー(仮)』を制作中、現在編集が大詰め。また、版画家・画家として個展を中心に作品を発表している。版画集に『日よ日よ紅え日よ:金素雲訳編「朝鮮童謡選」「朝鮮民謡選」より』(かりん舎/06)、『般若心経:淺野由美子木版画集』(かりん舎/08・24)。挿絵に『ギルガメシュ王のものがたり』(森の文化フォーラム/08)などがある。
動画工房ぞうしまWEBサイト編集協力:
秦岳志(はた・たけし)1973年東京都生まれ。京都芸術大学准教授。90年代よりミニシアター「BOX東中野」スタッフとして劇場運営に関わりつつ同事務所で映像制作業務を始める。その後、佐藤真監督と出会い、『花子』(01)、『阿賀の記憶』(04)、『エドワード・サイード OUT OF PLACE』(05)等の作品に編集者として参加。クリエイティブ・ドキュメンタリー映画の編集、プロデュースを中心に活動を続ける。主な編集作品に小林茂監督『チョコラ!』(08)、『風の波紋』(15)、真鍋俊永監督『みんなの学校』(14/編集協力)、小森はるか監督『息の跡』(16)、戸田ひかる監督『愛と法』(17)、『マイ・ラブ:6つの愛の物語 日本篇』(21)、原一男監督『ニッポン国VS泉南石綿村』(17)、『水俣曼荼羅』(20)、日向史有監督『東京クルド』(21)、國友勇吾監督『帆花』(21)、黒部俊介監督『日本原 牛と人の大地』(22)、川上アチカ監督『絶唱浪曲ストーリー』(23)など。プロデューサーとして日向史有監督『アイアム・ア・コメディアン』(22)など。
整音:
川上拓也(かわかみ・たくや)映画美学校ドキュメンタリーコース修了後、フリーの録音・編集として活動。録音担当作に小林茂監督『風の波紋』(15)、戸田ひかる監督『マイ・ラブ:日本篇 絹子と春平』(21)、西原孝至監督『百年と希望』(22)、石原海監督『重力の光:祈りの記録篇』(22)、甫木元空監督『はだかのゆめ』(22)、福間健二監督『きのう生まれたわけじゃない』(23)など。整音担当作に小森はるか監督『息の跡』(16)、國友勇吾監督『帆花』(21)、黒部俊介監督『日本原 牛と人の大地』(22)、島田隆一監督『二十歳の息子』(22)、奥間勝也監督『骨を掘る男』(24)など。編集担当作に酒井充子監督『台湾萬歳』(17)、空音央監督『Ryuichi Sakamoto | Opus』(23)、福永壮志監督『アイヌプリ』(24)などがある。
劇場情報
1,500円(税込)発売中
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使用できません)
北海道・東北
地域 | 劇場 | 電話番号 | 公開日 |
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北海道 札幌市 |
シアターキノ | 011-231-9355 | 12月14日(土)~ |
備考 | |||
北海道 苫小牧市 |
シネマ・トーラス | 0144-37-8182 | 25年1月4日(土)~ |
備考:月曜定休 | |||
北海道 函館市 |
シネマアイリス | 0138-31-6761 | 近日公開 |
備考 | |||
宮城県 仙台市 |
フォーラム仙台 | 022-728-7866 | 25年1月3日(金)〜1月16日(木) |
備考 | |||
山形県 山形市 |
フォーラム山形 | 023-632-3220 | 25年1月3日(金)〜1月9日(木) |
備考 | |||
福島県 福島市 |
フォーラム福島 | 024-533-1515 | 25年1月10日(金)〜1月16日(木) |
備考 |
関東
地域 | 劇場 | 電話番号 | 公開日 |
---|---|---|---|
東京都 中野区 |
ポレポレ東中野 | 03-3371-0088 | 12月7日(土)~ |
備考 | |||
東京都 千代田区 |
ヒューマントラストシネマ有楽町 | 03-6259-8608 | 12月7日(土)~ |
備考 | |||
神奈川県 横浜市 |
横浜 シネマ・ジャック&ベティ | 045-243-9800 | 12月7日(土)〜 |
備考 | |||
神奈川県 川崎市 |
川崎市アートセンター | 044-955-0107 | 近日公開 |
備考 | |||
埼玉県 川越市 |
川越スカラ座 | 049-223-0733 | 25年1月18日(土)〜1月31日(金) |
備考 | |||
千葉県 柏市 |
キネマ旬報シアター | 04-7141-7238 | 近日公開 |
備考 | |||
群馬県 高崎市 |
シネマテークたかさき | 027-325-1744 | 25年1月10日(金)~ |
備考 | |||
栃木県 宇都宮市 |
宇都宮ヒカリ座 | 028-633-4445 | 25年4月11日(金)~4月24日(木) |
備考 | |||
茨城県 那珂市 |
あまや座 | 029-212-7531 | 近日公開 |
備考 |
中部
地域 | 劇場 | 電話番号 | 公開日 |
---|---|---|---|
愛知県 名古屋市 |
ナゴヤキネマ・ノイ | 052-734-7467 | 12月21日(土)~ |
備考:火曜定休 | |||
静岡県 静岡市 |
静岡シネ・ギャラリー | 054-250-0283 | 12月27日(金)〜1月9日(木) |
備考 | |||
静岡県 浜松市 |
シネマイーラ | 053-489-5539 | 近日公開 |
備考 | |||
石川県 金沢市 |
シネモンド | 076-220-5007 | 近日公開 |
備考 | |||
新潟県 上越市 |
高田世界館 | 025-520-7626 | 近日公開 |
備考:火曜定休 |
近畿
地域 | 劇場 | 電話番号 | 公開日 |
---|---|---|---|
大阪府 大阪市 |
第七藝術劇場 | 06-6302-2073 | 12月7日(土)~ |
備考 | |||
京都府 京都市 |
京都シネマ | 075-353-4723 | 12月13日(金)~ |
備考 | |||
兵庫県 神戸市 |
元町映画館 | 078-366-2636 | 25年1月4日(土)〜 |
備考 |
中国・四国
地域 | 劇場 | 電話番号 | 公開日 |
---|---|---|---|
広島県 広島市 |
横川シネマ | 082-231-1001 | 12月28日(土)〜 |
備考 | |||
広島県 福山市 |
福山駅前シネマモード | 084-932-3381 | 25年1月17日(金)〜30日(木) |
備考 | |||
香川県 高松市 |
ソレイユ・2 | 087-861-3302 | 25年1月10日(金)〜1月23日(木) |
備考 | |||
愛媛県 松山市 |
シネマルナティック | 089-933-9240 | 近日公開 |
備考 |
九州・沖縄
地域 | 劇場 | 電話番号 | 公開日 |
---|---|---|---|
福岡県 福岡市 |
KBCシネマ1・2 | 092-751-4268 | 12月27日(金)〜 |
備考 | |||
佐賀県 佐賀市 |
シアター・シエマ | 0952-27-5116 | 近日公開 |
備考 | |||
熊本県 熊本市 |
Denkikan | 096-352-2121 | 近日公開 |
備考 | |||
宮崎県 宮崎市 |
宮崎キネマ館 | 0985-28-1162 | 12月27日(金)〜1月9日(木) |
備考 | |||
鹿児島県 鹿児島市 |
ガーデンズシネマ | 099-222-8746 | 近日公開 |
備考 | |||
沖縄県 那覇市 |
桜坂劇場 | 098-860-9555 | 近日公開 |
備考 |
コメント
家族の映像を記録し、公開することの可否を、息子に問われた老いた父の返答に、複雑な感情でなんともいえず胸がきゅうっと詰まった。
どこかほっと安堵したような気持ちにもなったわたしは、もしかするとその返答を「正解」だと感じた、あるいは「受け入れた」のかもしれない。
わたしは、いつも「正解」を求めてしまうのだな。自分にも、誰かにも。
「どうすればよかったか?」という問いに正解を答えるのは、決して難しいことではない。
それでも人は必ずしも正解を選ばない。どうすればよかったか、みんな本当はわかっているはずだった。
鎖のかかった扉の内側から家族を見つめる静かな視点。
終わっていく物語は私たちにもういちど問う。一体、どうすればよかったか、と。
姉の病気を認めないことで成立する「家族」のあり方。おそらく多くの機能不全家族にも通じる矛盾であり、その矛盾をはっきりとカメラに残したドキュメンタリーである。
姉、弟、父、母。
一緒に暮らしているがゆえに、どうしようもなく孤立していく人たち。
聞こえてる? 聞こえてるよね。
25年間にも及ぶ、すれ違う会話の集積が問いかける。
では、家の中に閉じ込められた困難に、社会は、他者は、何ができるのか。
どうすればよかったか。――わたしたちはこの映画から、対話を始めたい。
解釈を拒む奇妙で厳しい現実を、そのままゴロっと差し出したような映画である。だからか、どう評していいのか分からない。観た後しばらく茫然とするしかなかった。
映像はふるえている。目もくらむ年月を重ねたままならない日々と家族が、そこにうつっている。求めることができなかった助けの声が、問いのかたちとなって社会に手渡された。映像を観たいま「あなたたちはこうすればよかった」ではなく「わたしたちはどうすればよかったか」という思いが離れない。
ある時点よりも先の未来の物語には、常に無数の筋があります。
その時点での環境、不安、希望、知識、出会いなど、様々なものに影響されながら、その人や周りの人たちは一つの筋の物語を紡いでいきます。
人生の物語はどの時点でも道半ばで、いくらでも振り返ることはできるけど、歩んでいる筋のよしあしに正解はきっとありません。
どうすればよかったか?
問いは壮大。考え続けることは楽ではない。
けれど、とても稀有な記録、記憶をたどりながらそれを一緒に考えるような鑑賞体験は、とても貴重で意義ある時間に感じられました。
これは私たちの映画だ。「両親は玄関に鎖と南京錠をかけて姉を閉じ込めた」と聞けば、常識的ではない家族の記録と早合点しそうになるが、事はそうシンプルではない。統合失調症の「姉」に大多数の人と異なる点があるのは確かだが、常識的ではないかといえば違う。そろって医者の「両親」は常識人であることに執着し、常識的ではない日々にたどり着いた。では、そんな家族を撮りつづけた監督のふるまいは常識的といえるか。誰にとっても他人事ではない人生がここにある。
観終えてずっと考えている。どうすればよかったのか。でも答えはまだ見つからない。早く医療に繋げるべきとか拘束すべきではないとかのフレーズは浮かぶけれど、それが根源的な解だとは思えない。きっと他にある。だからもう少し考え続ける。
カメラを持った男――弟であり息子でもある彼は、「撮る」ことでいかに自らの家族と、そして世界と切り結ぼうとしたのか。
記録されることがなかったかもしれない場所で、「ともちゃん」と呼ばれる男から、人間探究の目が立ち上がってくる。我々はこの目の発動を映画と名付けているのではないか。カメラの前で老いた父親と真っ直ぐ向き合う藤野知明監督の姿が、この映画の決定的な余韻として残っている。